大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福島地方裁判所会津若松支部 昭和50年(ヨ)36号 判決

債権者

穴沢之孝

債権者

安藤敬喜

債権者

鈴木一夫

債権者

菊地信雄

債権者ら訴訟代理人弁護士

安藤裕規

安藤ヨイ子

債務者

東北日産電子株式会社

右代表者代表取締役

上原哲雄

右訴訟代理人弁護士

山本真養

主文

一、債権者らが、債務者に対し、雇傭契約上の従業員たる地位を有することを仮に定める。

二、債務者は、債権者穴沢之孝に対しては、昭和五〇年六月二九日から一か月金六万三、三〇〇円の、債権者安藤敬喜に対しては、昭和五〇年八月二一日から一か月金六万三、九〇〇円の、債権者鈴木一夫に対しては、同日から一か月金六万〇、一〇〇円の、債権者菊地信雄に対しては、同日から一か月金六万二、一〇〇円の各金員を、それぞれ、毎月二七日限り、本案判決確定に至るまで仮に支払え。

三、訴訟費用は、債務者の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  債権者ら

「1 債権者らが、債務者に対し、雇傭契約上の従業員たる地位を有することを仮に定める。

2 債務者は、債権者穴沢之孝に対しては、昭和五〇年六月二九日から一か月金六万三、三〇〇円の、債権者安藤敬喜に対しては、昭和五〇年八月二一日から一か月金六万三、九〇〇円の、債権者鈴木一夫に対しては、同日から一か月金六万〇、一〇〇円の、債権者菊地信雄に対しては、同日から一か月金六万二、一〇〇円の各金員を、それぞれ、毎月二七日限り、本案判決確定に至るまで仮に支払え。」との判決。

二  債務者

「債権者らの各申請を却下する。」との判決。

第二当事者の主張

一  申請の理由

1  (当事者、雇傭契約の存在)

(一) 債務者は、肩書住所地(略)に本社兼工場を有し、電子電気機器及びその製造販売とそれに付帯する業務を目的とする会社である。

(二) 債権者穴沢之孝(以下単に「債権者穴沢」と称する。他の債権者についても同じ)は、昭和四六年三月九日、債権者安藤は、昭和四七年七月一四日、債権者鈴木は、同年四月一六日、債権者菊地は、同年三月六日、それぞれ債務者に雇傭された者で、債権者らは、いずれも債務者の従業員である。

(三) 債権者らは、いずれも、昭和四九年四月二四日結成された東北日産電子労働組合の組合員で、同労働組合(以下単に「同組合」と略称することもある。)の結成と同時に、債権者安藤は執行委員長に、債権者鈴木は副執行委員長に、債権者菊地は書記長に選任され、同年七月同組合青年部の結成とともに、債権者穴沢は青年部長に選任され、いずれも、組合活動に尽力してきた。

2  (解雇の意思表示)

債務者は、昭和五〇年六月二八日、債権者穴沢に対し、電報により、同日付で同債権者を解雇するとの意思表示をなし、この電報は、同日同債権者に到達した。また、債務者は、同年七月二〇日、債権者安藤、同鈴木、同菊地の各自に対し、書面により、右各債権者を、同年八月二〇日付で解雇するとの意思表示をなし、右各書面はそのころ右各債権者に到達した。債務者は、このように、債権者らが、債務者に対し、雇傭契約上の従業員たる地位を有することを争っている。

3  (債権者らの賃金)

債務者の賃金支払方法は、毎月二〇日締切で二七日払であるが、各債権者は、前記解雇の意思表示前、債務者から、別紙目録(略)記載のとおり各賃金の支払を受けていた。

4  (保全の必要性)

(一) 債権者らは、いずれも、賃金を唯一又は主要な生計の資金とする労働者であって、賃金の支払を受けなければ日々の生計を営むことは困難であるばかりか、それぞれの家庭内の中心的な働き手であるため、本件解雇によって、各家庭とも、物心両面における困窮状態に追いこまれた。

(二) 債権者らは、前記のとおり、いずれも東北日産電子労働組合の役員であるが、本件解雇により、自由な労働組合活動を妨げられている。

5  よって、債権者らは、債務者に対し、雇傭契約上の従業員たる地位を有し、賃金の支払請求権を有するが、本案訴訟の判決の確定を待っては、著しい損害を受けるおそれがあるので、本件仮処分を求める。

二  申請の理由に対する答弁

1  申請の理由第1項(一)及び(二)の事実は認める。同項(三)の事実中東北日産電子労働組合結成の事実及び債権者穴沢に関する事実は認めるが、その余は不知。

2  同第2項の事実はすべて認める。

3  同第3項の事実中、賃金の支払方法及び債権者穴沢に関する部分は認める。

4  同第4項の事実は(一)、(二)とも否認する。

三  債務者の反論

1  (債権者穴沢の解雇について)

(一)(1) 債権者穴沢は、従前から作業意欲を欠く傾向があったが、昭和五〇年三月債務者の工場における「二T二」という製作ラインのライン長に就任したものの、同年六月ころから意識的に作業能率を阻害するようになり、製作数量を他のラインと比較して少ない状態に陥れ、生産予定量に至らせず、債務者に損害を与えた。このため、債務者の生産部長から注意を受けたが、働く気がないと述べて反抗的態度をとり、その後も、誠実に職務に従事せず、改善の努力もしなかった。

(2) 債権者穴沢は、若年であり教育による改善の余地があるとの判断のもとに、債務者から、日産電子株式会社への出向を命ぜられたのに対し、正当な理由がないのに、これを拒絶した。

(二) 債務者の就業規則には、第一〇一条第六号、第一二号、第二一号に次のような規定があり、右(一)の(1)(2)の事実は、これに該当するので、債務者はこれに基づき債権者穴沢を懲戒解雇した。

「第一〇一条 次の各号の一に該当する場合は、懲戒解雇に処する。

六、業務命令に不当に反抗したとき一二、正当な理由なく異動、転勤、異職種等の業務命令を拒否したとき

二一、故意に作業能率を阻害したとき」

(三) かりに右(一)の各事実が右(二)の就業規則の規定に該当しないとしても、債務者は、債権者穴沢に対する解雇の意思表示をするに際し、一か月分の賃金を予告手当として支払提供した。

したがって、同債権者に対する解雇は、少なくとも通常解雇としての効力を有する。

2 (債権者安藤、同鈴木、同菊地の解雇について)

(一)(1)  債権者安藤、同鈴木、同菊地は、昭和四九年六月二〇日、同月二八日、同年七月一日、同月二日の合計四回にわたり、他の従業員らとともに約一〇名で、一五分間ないし三五分間の職場放棄を行ったのをはじめ、その後、債務者からの警告を無視し、同年七月一二日、多数の者とともに債務者事務所へ押しかけ、罵声を上げ威迫するような行動をして職場放棄し、さらに、同年一一月一五日、同月二一日、同月二八日、同年一二月一二日の四回にわたり、右債権者ら三名で又は他の従業員らを伴って約一五名ないし二五名で、制止を無視して債務者事務所に乱入したうえ、債務者の上原総務部長らに対し中傷暴言の限りをつくして、約一〇分間ないし四〇分間職場放棄した。

(2) 東北日産電子労働組合の行うビラ類の掲示等の広報活動については、労使間の合意によって、債務者の食堂内に専用掲示板が設置されていたのに、同組合は、債権者安藤、同鈴木、同菊地の意思のもとに、同年七月一二日ころ債務者の会社内にあるクーラー設備の前面に直接ビラを貼って設備の保安維持に支障を生じさせたのをはじめ、債務者からの右ビラの撤去申し入れにもかかわらず、同年一二月二三日、右債権者らの企画、指示に基づき、債務者の許可、同意を得ないまま債務者の会社施設の至る所にビラを貼付した。それらのビラの内容は、「金出さぬと会社に火をつけるぞ。早く出せ。」などほとんどが非常識な攻撃的文句ばかりであった。

(3) 昭和四九年一二月当時、債務者と同組合との間で年末一時金の支給をめぐって交渉が行われていたが、債務者は銀行融資を受けなければ資金がない状態であったのに、債権者安藤、同鈴木、同菊地は、政党の調査で債務者に黒字が出ていることは明らかだとして債務者の説明を聞かず、同月二二日ころ、同組合の他の執行委員を伴って、債務者の取引銀行である東邦銀行喜多方支店へおしかけ、同支店支店長に面会を強く求めたうえ、労使紛争を印象づけるような言動をして、債務者の信用を毀損し、その結果、以降の債務者の金融取引について債務者の役員全員の個人保証を付さないと融資が受けられず、商業手形の割引が不自由となるような事態を招来させた。

(4) 昭和五〇年一月二一日、債務者と同組合との間で団体交渉が予定されていたが、債務者は、作業所閉鎖中であったことから、団体交渉の場所をあらかじめ山形屋旅館という旅館に指定し、所定時間に待機していたのに、債権者安藤、同鈴木、同菊地は、他の従業員らを伴って五〇名以上で、大挙して同旅館に押しかけて騒ぎ、団体交渉を不可能にし、同旅館から営業妨害になるからと退去を求められたばかりか、債務者の交渉担当者上原総務部長を、多数で同労組の待機場所となっていた聖光寺という寺に連れこみ、その場で約三〇〇人の同組合組合員らとともに取り囲み、同日午後四時三〇分ころから一方的に暴言を吐いてつるしあげ、債務者の管理職の要求によって解放されるまで、約四時間にわたり同人を監禁状態に置いた。

(5) 昭和四九年一二月中旬ころ、債権者菊地は、債権者安藤、同鈴木との協議のうえ、埼玉県大宮市所在の日産電子労働組合のもとへ赴いて、いわゆる共闘の申し入れをするに際し、「債務者がつぶれてもよいから闘う。」などの主張をしたほか、右債権者らは、昭和五〇年一月一六日、東北日産電子労働組合に違法不当な抜き打ちストライキをさせ、同年二月七日債務者から従業員に配布された文書を回収させるなど闘争至上主義的言動により、債務者の職場秩序を乱した。

(なお、(1)から(5)につき、債権者らの個人責任を問うもので、いわゆる組合幹部責任は問わない。)

(二)  債務者の就業規則には、第一三条、第四六条第一一号、第一〇〇条第一号、第一〇号、第一〇一条第八号、第一四号、第一五号、第二三号に次のような規定があり、右(一)の(1)の事実は第四六条第八(ママ)号に、(2)の事実は第一〇一条第八号に、(3)の事実は第一〇一条第一五号に、(4)の事実は第一〇一条第八号に、(5)の事実は、第一〇一条第一四号、第二三号、第一三条、第一〇〇条第一号、第一〇号にそれぞれ該当するので、債務者は、債権者安藤、同鈴木、同菊地を懲戒解雇した。

「第一三条 従業員は就業中に労働組合活動を行ってはならない。

第四六条 会社は従業員が次の各号の一に該当するときは解雇する。

一一、勤務不良等、従業員としての適格を欠き、又は引き続き雇傭するに耐えられないと認められたとき

第一〇〇条 次の各号の一に該当する場合は、減給又は停職、出勤停止、勤務替え、降格に処する。

一、服務規律に違反し、その情状が重いとき

一〇、事業場内の秩序風紀をみだしたとき

第一〇一条 次の各号の一に該当する場合は、懲戒解雇に処する。

八、他人に暴行脅迫を加え、若しくは業務の妨害をなしたとき

一四、前条に該当し、その情状が重いとき

一五、不正不義の行為を犯し、会社の名誉信用を著しく汚したとき

二三、不当な争議行為をなし業務に重大な支障を及ぼしたとき」

(三) かりに右(一)の各事実が右(二)の就業規則の規定に該当しないとしても、債務者は、債権者安藤、同鈴木、同菊地に対する解雇の意思表示をするに際し、それぞれ一か月の予告期間を置いていたから、右各債権者に対する解雇は少なくとも通常解雇としての効力を有する。

四 債務者の反論に対する債権者らの答弁

1  債務者の反論第1項(一)の(1)の事実はすべて否認する。同(2)の事実中、債権者穴沢が出向を拒否したことは認めるが、その余は否認する。同債権者が出向した場合、その家族構成を考えれば、家業の農業の働き手が失われ、家族の生活維持ができなくなるから、出向拒否には正当な理由がある。

同項(二)の事実中、就業規則の定めについては認めるが、その余は否認。

同項(三)の通常解雇としての効力は争う。

2  債権者の反論第2項(一)の(1)の事実はすべて否認する。債権者らが、債務者との間で勤務時間にくいこむ形で事務折衝をしたことはあるが、債務者の承認のもとに、労使慣行となっていたもので、職場放棄ではない。同(2)の事実中、東北日産電子労働組合専用の掲示板が設置されていたこと、昭和四九年七月一二日ころ債務者から申し入れを受けたこと、同年一二月一三日、同組合が年末一時金要求に関連してビラ貼りをしたことがあることは認める。しかし、右ビラは決して不穏当なものではなかった。同(3)の事実中、東邦銀行への訪問が行われたことは認めるが、その余は否認する。右訪問は、債務者の承諾のもとに、平穏に行われたものである。同(4)の事実は、昭和五〇年一月二一日団体交渉が予定されていたという点を除き、すべて否認する。同日の団体交渉は、債務者会社の食堂で行われることに予定されていたのに、債務者が一方的に場所を変更したため、問題が生じたものである。ら致、監禁の事実はない。同(5)の事実はすべて否認する。

同項(二)の事実中、就業規則の定めについては認めるが、その余は否認。

同項(三)の通常解雇としての効力は争う。

五 債権者らの再反論

1  (不当労働行為による解雇の無効)

債権者らは、申請の理由第1項の(三)に記載のとおり、いずれも東北日産電子労働組合の組合員であって、その中心的役割を果してきた者であるが、次のような事実経過に照らすと、債権者らに対する本件の解雇の意思表示は、いずれも、債権者らの正当な労働組合活動を理由とするものであるから、労働組合法七条一項により、不当労働行為として無効である。

(一) 債務者が、同組合結成直後の昭和四九年五月七日、受注減という理由で定期社員の解雇と準社員六〇名の一時帰休を通告したのに対し、同組合は、債務者と交渉をして、被解雇者に対し、正社員と同一の退職金を支給することを約束させた。

(二) 債務者は、さらに、昭和四九年六月一五日、再度、受注減を理由として、同月一八日から同年七月一七日までの間、三〇名を一時帰休させることを通告してきたので、同組合は、債務者に対し、直ちに、右一時帰休に関する団体交渉の申し入れを行ったが、債務者から言を左右にしてこれを拒否されたため、やむをえず、同年七月九日二時間にわたる時限ストライキを行うなどして交渉を続け、その結果、一時帰休対象者に対し、給与の八〇パーセントの支給をするとの合意を結ぶに至り、妥結を見た。

(三) 同組合は、債務者の一方的な人員整理の強行によって労使間に紛争が起こることを防止しようと考え、同月三一日、債務者との間で、左記の内容の確認書を取りかわした。

「 記

今後のレイオフを含む労働条件の改変については労働組合と合意に達するべく労使双方誠意をもって協議するという基本方針の上に立って今後労働協約を締結する。」

(四) 右確認書に基づき、同年一一月二九日、同組合と債務者との間で、左記内容の労働協約が締結された。

「 記

一、組合員の解雇、昇進、降格、異動、配転等は労働条件である。

二、組合員の解雇、昇進、降格、異動、配転等は、最低一か月前に通告し、組合と協議のうえ組合及び本人の同意を得るまで最大限の努力をする。

三、事業所の移転については、六か月前に通告する。」

(五) ところが、債務者は、右労働協約を無視して、昭和五〇年一月七日、受注減を経費削減で乗り切るため八〇名の人員整理を行うとの通告をしてきたので、同組合は、債務者に対し、団体交渉の申し入れをしたが、債務者は、これに形式的に応ずるのみで、「中村会長が来なければ決着はつかない。会長は、組合が解雇を認めなければ、絶対に話し合いに応じない。」との返答をくり返し、実質的に団体交渉を拒否した。そこで、同組合は、やむをえず、同年一月一六日、債務者に対し、翌一七日午前八時四〇分から二四時間ストライキに入るとの通告をしたところ、債務者は、同月一七日午前七時三〇分、違法な形で、先制ロックアウトをした。

(六) その後、債務者は、同組合の組合員に対する脱退工作、違法なロックアウトの継続、団体交渉の拒否、同組合に対する支配介入行為を続けてきたが、債権者らは、同組合執行部の構成員として、その団結を守り、人員整理を撤回させるため組合活動に専心した。

(七) 債務者と同組合とは、同年三月五日、債務者の先制ロックアウトに端を発した紛争に関し、要旨左記のような確認書を取交し、妥結をした。

「 記

一、労働組合は六七名の解雇を認め、同意する。但し、六名を債務者は再雇傭する。

二、出向命令については、当分の間猶予する。

三、労働組合の執行委員一一名は、次項の問題が解決するまで自宅待機する。

四、ロックアウト中の賃金等に関する問題は両者協議して円満に解決する。」

(八) その後、同組合は、債務者に対し、ロックアウト中の賃金問題の解決のために、団体交渉の申し入れを行ったが、債務者は、右(七)の妥結の際に結ばれた一週間以内に解決するとの約束に反し、「四月から六月までの三か月間の実績をみないと決められない。」との言をくり返して引き延しを計り、団体交渉を実質的に拒否し続けた。

債権者ら同組合執行部は、右の引き延ばしのため就労できなかったことから、労働組合活動を補充する必要性に迫られて、職場委員制を採用することとし、債務者の会社内における組合活動は、執行委員会の指導のもとに、職場委員会がこれを担当する態勢にした。

(九) 債務者は、同組合からのたび重なる要求の結果、同年六月二六日、ロックアウト中の賃金補償として賃金の七〇パーセントを支払うことを表明したが、他方、同日、前記のとおり同組合青年部長であり、かつ、職場副委員長であった債権者穴沢及び元同組合執行委員であった五十嵐利光に対し、同組合の弱体化を計る意図のもとに、理由を告げることなく、大宮の日産電子株式会社への出向を命じた。同債権者らが、右出向命令は、労働協約に反していること、家庭の事情があること等の理由でこれを拒否し、同組合と協議してほしいと求めたところ、債務者は、右両名を解雇する挙に出た。

(十) その後、同組合と債務者とは、同年七月一五日、ロックアウト中の賃金について、賃金補償率を七〇パーセント、支払期日を同月二四日又は二五日とするとの案で、ほぼ合意し、妥結、協定書作成を待つ段階にまで至ったのに、債務者は、同月一九日、同組合に無断で、賃金の七〇パーセントを労働者に支払ったばかりか、ロックアウト中の賃金問題が解決すれば同組合執行部の構成員を就労させる、との協定を無視し、同月二〇日付文書により、債権者安藤、同鈴木、同菊地を解雇した。

2  (労働協約違反による解雇の無効)

前記第1項(四)に記載のとおり、債務者と同組合とは、労働協約を結び、組合員の解雇等の手続について協定しているのに、債務者は、債権者らの解雇に際し、右労働協約による同組合との協議をせず、解雇事由の釈明もしないから、債権者らに対する本件の解雇の意思表示は、いずれも、労働協約違反として、無効である。

3  (就業規則違反による解雇の無効)

債務者の就業規則には、第一〇八条、第一〇九条に次のような懲戒に関する手続が定められているのに、債務者は、債権者らの懲戒解雇に際し、債権者らに弁明の機会を与えておらず、また、懲戒審査委員会を開催しないまま、代表取締役名で本件各懲戒解雇を行ったから、これらは、いずれも、就業規則違反として、無効である。

「第一〇八条 従業員は懲戒審査会において弁明の機会が与えられる。

第一〇九条 懲戒の発動は所属長又は従業員の申告に基づき、懲戒審査委員会がこれを行う。審査委員会は申請者の氏名を公表しない。」

4  (労働協約違反又は権利濫用による解雇の無効)

前記第1項の(七)に記載のとおり、債務者と東北日産電子労働組合とは、昭和五〇年三月五日、労使紛争の収拾に当って、同組合執行委員の処遇について、執行委員は、ロックアウト中の賃金問題の解決まで自宅待機するとの協定を結んで、執行委員は右問題が解決したときは、当然に就労できることを合意した。

ところが、債権者安藤、同鈴木、同菊地に対する各解雇は、いずれも同年三月五日以前の行為を理由としているから、右の労働協約に反して無効であり、少なくとも、右労働協約の精神に照らして権利濫用であって、無効である。

六 債権者らの再反論に対する債務者の答弁

1  債権者らの再反論第1項の不当労働行為意思は否認する。なお、同項(一)の事実は、一時帰休人員数を除いて認める。右人員数は六三名である。同項(二)の事実中、一時帰休、ストライキに関する部分は認めるが、その余は否認する。同項(三)、(四)の事実は、全部認める。同項(五)の事実は、否認する。同項(六)の事実中、債権者らに関する部分は不知。その余は否認する。同項(七)の事実中、主張どおりの確認書が交換、締結されたことは認めるがその性質は否認する。同項(八)から(十)までの事実は、いずれも否認する。

2  債権者らの再反論第2項の事実中、労働協約の定めについては認めるが、その余は否認する。債権者らに対する解雇のように個人的事由による場合は、組合と協議しなかったからと言って、解雇の無効を来すものではない。

3  債権者らの再反論第3項の事実中、就業規則に主張どおりの定めがあることは認めるが、その余は否認する。債権者らを解雇するための懲戒審査会は、取締役会をもってこれにあてた。債権者穴沢については、同人からの出向辞退書の提出により、その弁明を聞いた。

4  債権者らの再反論第4項の事実中、執行委員につき自宅待機させるとの協定が結ばれたことは認めるが、その余は否認する。

第三証拠(略)

理由

一  申請の理由第1項(一)及び(二)の事実並びに同項(三)の事実中、東北日産電子労働組合結成の点及び債権者穴沢に関する点は、当事者間に争いがなく、同項(三)の事実中の右以外の点は(証拠略)により、一応これを認めることができる。

二  申請の理由第2項の事実については、当事者間に争いがない。

三  債務者の反論第1項について判断する。

1  (証拠略)を総合すれば、

「(一) 債権者穴沢は、債務者の工場内で、副班長という資格で、昭和五〇年三月中旬から、ラジオ付カーステレオの組立、製造をする「二T二ライン」と呼ばれる製造工程のライン長を命ぜられて、その仕事に従事していた。同債権者は、同ライン内で不良品の修理を担当するほか、同ラインの責任者として、ライン内の作業全体を統括すべきこととされていた。

(二) 同ラインでは、当時、主として「八三一」との番号を付された機種のカーステレオを製造していたが、同種機種を製造していた「一T三ライン」(同ラインの作業員数は後記のとおり)に比し、製造台数が相当劣っていた。同ラインに頭入後、合格完成した台数は、同年六月二〇日、二三日から二八日まで、三〇日を例にとると、次のとおりである。(かっこ内は同じ日の「一T三ライン」の台数。)

六月二〇日、一三八台(二三〇台)。同月二三日、一五〇台(二二六台)。同月二四日、一一〇台(一三〇台)。同月二五日、八二台(二〇〇台)。同月二六日、一五四台(一七一台)。同月二七日、一七〇台(七五台)、同月二八日、一五〇台(二一〇台)。同月三〇日、一七〇台(二〇三台)。

(三) そこで、債務者の側では、同ラインの能率が悪いことの原因がライン長で修理を担当する同債権者にあると考え、作業能率向上を目的として、同年六月二五日ころ、同債権者を埼玉県大宮市所在の日産電子株式会社に出向させるとともに、福島よしはるをその後任に命ずることを役員会において決定した。

(四) 右決定に基づき、同年六月二六日、債務者の製造部長川辺康弘が、同債権者に右出向の命令を伝えたが、同債権者は、家庭の事情等の理由によって出向を辞退する旨を述べ、同趣旨の文書を提出した。

(五) そこで、債務者は、同債権者に対し、特に説得、弁明の機会を与えないまま、解雇の意思表示をした。」

との事実を一応認めることができる。

2  また、債務者の反論第1項(二)中の債務者の就業規則の定めの点については、当事者間に争いがない。

3  しかしながら、(証拠略)を総合すれば、

「(一) 前記の「二T二ライン」は、ライン長の債権者穴沢ほか約二二名から成る多人数の工員団であって、修理担当者も、同債権者のほかに二名ほど配置されており、同債権者がライン長としてライン全体を統括する立場にあったことを考慮してもなお同人の怠業のみで全体の作業能率ないし作業結果が大きく変化するような作業員の構成ではなかった。

(二) 当時同ラインと同種機種を扱っていた前記の「一T三ライン」に比して、「二T二ライン」は作業員数が約三名ほど少なかったなど、作業員等の条件において差異があった。このため、同年七月二日ころ、前記の福島が同債権者に代って、同ラインのライン長を担当し、債務者側において、同ラインの作業能率が回復したと考えるようになったのちも、同ラインの完成台数は、次のように、概して「一T三ライン」より少なかった。(かっこ内は、同じ日の「一T三ライン」の完成台数。)

同月三日、一六五台(二二二台)。同月四日、一八一台(一六三台)。同月七日、一五四台(一八九台)。同月八日、二〇〇台(二一〇台)。同月九日、一八〇台(二三一台)。同月一〇日、一九三台(二二五台)。」

との事実が疎明される。

4  右の1において認定した事実によれば、債権者穴沢の勤務していた作業工程の能率が他の同種の工程を担当する者らのそれより相当程度悪かったことは認められるが、右3における認定事実に照らせば、その原因が同債権者の怠業にあると認めることは難しく、他に、同債権者の怠業があったことを積極的に裏づける事実を窺わせる証拠はない。

5  また、特別の事情の主張立証のない本件においては、債務者のいわゆる出向の命令とは、使用者たる債務者が、労働者たる債権者穴沢に対し、第三者たる日産電子株式会社のために、その第三者の指揮下において労務に服させることを内容とするものと考えられる。

ところで、民法六二五条の趣旨によれば、雇傭契約上の権利義務は一身専属的性質をもつものと思われ、使用者は、特段の合意がない限り、自己の指揮命令の下においてのみ労働者に労務の提供を命じうるにとどまり、労働者も、雇傭契約においてあらかじめ同意し、あるいはその後に個別的に同意しない限り、当該使用者の指揮命令下において、右使用者のためにのみ労務を提供すべき義務を負うにすぎないものと解される。

前記1の(四)において認定した事実によれば、債権者穴沢が本件の出向命令に同意しなかったことは明らかであり、また、本件全証拠によっても、同債権者があらかじめ出向に同意していたことを疎明する証拠はなく、結局、本件出向命令は同債権者に対する拘束力を持たないから、これを拒否したからといって懲戒処分に付することはできない。

6  以上に検討したところによれば、同債権者には懲戒解雇処分に付すべき理由はないから、他の点について検討するまでもなく、同債権者に対する懲戒解雇処分は無効と断ぜざるを得ない。

7  次に、債務者は、同債権者に対する解雇が懲戒解雇としての効力を生じていないとしても、普通解雇として有効であるとの主張をしているので、その点を検討しておく。

普通解雇の場合にもその効力を主張する者は、その要件を主張立証すべきものと解され、現に成立に争いのない(証拠略)によれば、債務者の就業規則第四六条には、普通解雇についての要件が定められており、同条第一二号を除いては、懲戒解雇の場合と要件が異なることが一応認められるが、債務者はこれに該当する事実を主張、立証しない。

また、そもそも、懲戒解雇の意思表示が無効とされる場合これを普通解雇の意思表示に転換することはできないと解される。なぜならば、懲戒解雇と普通解雇とでは、その根拠、要件、法律効果が互いに異なっているから前者としての意思表示に後者の意思表示が当然に含まれていると考えることはできないし、解雇の意思表示のような単独行為についていわゆる無効行為の転換を認めると、相手方の地位を著しく不安定なものとするから適当でないうえに、実際上の見地から言っても、このような転換が認められることになれば、安易に懲戒解雇を行なう傾向を招き、ひいては懲戒権の濫用を誘発するおそれがあるからである。

そうすると、同債権者に対する解雇は、普通解雇としても効力をもたず、債務者と同債権者との間には、なお雇傭契約が存続しているものと一応認められる。

四  債務者の反論第2項について判断する。

1  (証拠略)を総合すれば、

「(一)(1) 債務者は、自社製品の受注が減少したことから、昭和四九年五月、従業員の解雇と一時帰休を実施したが、同年六月一五日、東北日産電子労働組合に対し、同月一八日から同年七月一七日までの間、再度、従業員三〇名を一時帰休させるとの通告をした。

同組合では、これに対し、直ちに、団体交渉をすることを債務者に申し入れたが、債務者から、一時帰休は人事権の問題であるなどとして、これを拒否されたため、いわゆるストライキ権の確立をするなどして、一時帰休と一時金給付の問題をあわせて、交渉を要求した。

(2) 同年六月二〇日、債務者の側で、同組合組合員十数名を食堂に呼んで、会社の方針を説明し、説得していたところ、債権者安藤がこれを知り、債権者鈴木、同菊地ほかとともに、同日午後三時一〇分ころ、食堂に赴き、約一五分にわたって、右の説得をやめるように頼んだ。右債権者らは、「業務命令違反だ。」と言われたため、作業に戻った。

(3) その後同組合から債務者に対し、労使紛争の早期解決の要求が出されたが、交渉に進展がなかったことから、同組合では、右債権者三名を含む執行部全員で、団体交渉による紛争解決の申し入れを求めることにし、同月二八日始業前から債務者に対し申し入れを行った。しかし、色よい返事が得られなかったため長びき、右債権者らは、同日午前八時四〇分ころから午前九時一五分ころまで職場を離脱する結果となった。

(4) さらに、債務者は、同年七月一日、従業員に対し、勧告書なる書面を配布して会社側の立場につき説得活動をするなどしたため、右債権者らは、同日午後四時一五分ころから午後四時五〇分ころまで及び翌同月二日午前一〇時一〇分ころから午前一〇時四五分ころまでの二回にわたり、債務者の総務部へ行き、当時の総務部長代理松村に対し抗議をし、その間、職場離脱した。

(5) 債務者は、同月四日、右債権者らに対し、右(2)から(4)までの行為を時間内の労働組合活動であるとして、文書により、今後このようなことが発生しないようにとの通告した。

(6) その後、同組合では、同月九日に時限ストライキを行うなどして団体交渉を要求し、債務者との間で数回にわたって団体交渉が開かれ、その結果、同月三〇日、一時帰休に関して合意に至り、労使紛争は、いったん解決した。

(7) しかし、一時金支払要求の問題は解決されていなかったので、同組合では、同年一一月八日これに関する要求書を債務者に提出した。

債務者側は、右要求書に対し、同月一五日に回答をすると答えていたが、これが無理とわかったため、同月一四日、同組合に、右の要求の返答をするための団体交渉を同月二一日に開くとの通告をした。

(8) 同組合では、右の通告を不当な引き延ばしと考え、同月一五日八時三〇分ころ、右債権者ら三名を含む多人数で、債務者総務部長代理富田のもとへ赴き、日延べした理由を詰問してこれに抗議し、押し問答をくり返して、始業時間にくいこみ、その結果約三〇分間にわたって就業しなかった。

(9) さらに、右の団体交渉の当日である同月二一日午前八時三〇分ころ、右債権者三名を含む同組合組合員約二〇名は、債務者総務部長代理富田の所に至り、同日の団体交渉に関して前もって約束してあったことを確認するとともに、この団体交渉を就業時間内に開くように要求し、その結果、始業時間後に食いこみ、約三〇分間にわたって職場離脱した。

(10) 同日の団体交渉において、債務者側から、一時金の給付とともに、不況を理由とする従業員の解雇の提案がされた。同組合では、男子の全体集会を開いてこれに対する態度を協議し、同月二八日午前八時三〇分から、右債権者三名を含む男子全員で、債務者総務部長上原哲雄に面会を求めたが、同人からこれを拒絶され、問答をくり返したため、若干の時間勤務時間にくいこんだ。

(11) 同年一二月に入ってからも、右の問題に関する団体交渉は継続されていたが、同月中にも、右同様の事態が発生したことがあった。

(二)(1) 債務者と同組合との間では、昭和四九年四月二九日、同組合は文書を貼付する場所として組合掲示板を使用するとの合意が結ばれていたが、同組合がこれに従わず、他の場所に掲示をしたとして、同年七月一二日、債務者から、同組合に対し抗議書が手渡されたことがあった。

(2) 同年一二月中旬ころまでに、前記の一時金給付と従業員の解雇の問題をめぐって、債務者と同組合との間で数回にわたって団体交渉が続けられていたが、話し合いが進展しなかったことから、同組合では、右債権者三名ほかの執行委員から成る執行委員会において、組合員の生の意見を会社に伝えるとの趣旨のもとに、組合員にビラを書かせることを決定した。この決定に基づき、同月二三日ころ、組合員が、わら半紙に思いつくことを書いて、ビラを作り、それを右組合掲示板のほか、債務者の工場、事務所の扉や机等の上にセロハンテープで貼りつけした。その枚数は百二、三十枚にのぼった。

これらのビラの中には、「金出さぬと会社に火をつけるぞ。早く出せ。」とか「中村、お前に私達の家庭を乱す権利はない。どうしても聞かないのなら、お前もお前の家庭もめちゃくちゃにしてやる。覚えておけ。」というように激越な言葉を含み適当でないために、その後間もなく債権者らの手で撤去されたものもあった。

(3) 債務者の側では、管理職の手で右のビラを撤去した。

(三)(1) 同年一二月一九日、債務者と同組合との間で、年末一時金給付に関して団体交渉が開かれたが、債務者側から、従業員に対して支給する一時金を増額するが、経営が赤字状態で財源がないため、同年一二月から翌昭和五〇年二月までの三回に分割してこれを支払うとの回答が示された。

これに対し、同組合では、債務者が昭和四九年度中に三、〇〇〇万円余の利益をあげたとの調査があるから、債務者の回答は不当であると主張し、債務者の取引銀行である東邦銀行喜多方支店へ行って、債務者の経営状態を確認してもよいかと迫ったところ、債務者側から、かまわないとの返答がされた。

(2) そこで、同年一二月二二日ころの午前中、同組合では、債権者安藤、同菊地を含む執行委員会の構成員十二、三名で、右銀行喜多方支店へ赴いた。右債権者らは、はち巻きをしめていたが、腕章、プラカード等はつけていなかった。債権者安藤が、来意を告げて同支店支店長に面会を求めたところ、組合三役に限って面会を許された。

同債権者らが、債務者から給付される一時金が僅少であることを述べ、その理由とされている債務者の資金状態の悪化が真実であるか尋ねると、同支店支店長五十嵐は、それを肯定し、経済一般の不況の状態等について説明した。

(3) 右(2)のころから、債務者が、同支店から、資金借り入れを拒絶されたり、融資の際役員の個人保証を要求されたりなどして、金融に不便を感ずる事態が生じた。

(4) 同組合では、(2)のとおり確認をしたこともあって、同月二五日臨時大会を開き、一時金支給要求について、債務者からの回答を受け入れ、妥結する運びとなった。

(四)(1) 昭和五〇年一月に入って、解雇問題について、債務者と同組合との間で団体交渉が続けられたが、歩み寄りが見られず、同組合が、同月一六日、翌日ストライキを行うことを通告すると、債務者は、解雇対象者に解雇通知をするとともに、同月一七日、同日から当分の間ロックアウトをするとの宣言をする事態に立ち至った。

(2) しかし、債務者と同組合との間で、団体交渉による紛争解決のための接触は続けられ、同組合から、債務者に対し、同月二一日に債務者の会社食堂内で団体交渉をするようにとの要求が出された。

これに対し、債務者側は、ロックアウト中でもあるので、団体交渉を会社内で行うことは適当でないと考え、福島県耶麻郡熱塩加納村所在の山形屋旅館を交渉場所として手配し、同日昼ころ、総務部長代理富田が、同組合に電話し、執行委員磯部孝に、同日午後二時から右山形屋旅館で団体交渉をすると伝えた。

(3) 同組合では、同日、平林という場所にある寺院を借りて組合員を待機させていたが、右の連絡を受けると、不当に場所を変更したものと考え、債権者安藤、同鈴木らが中心となって多人数で、自動車で、右山形屋旅館に至り、その玄関先から、「出て来い。」などと口々に言って、同旅館内に待機していた債務者の総務部長上原哲雄らを呼びつけ、その場所では団体交渉をするわけにはいかないとの意思を伝えた。

旅館側から他の客の迷惑になるからといって退去を求められたこともあって、上原は、同旅館から立ち去り、債権者安藤に強く求められて、同債権者の運転する自動車に乗りこみ、同日午後四時三〇分ころ、右の平林の寺院に連行された。

(4) 債権者安藤ら同組合の組合員約三〇〇名は、同寺院内に連れて来た上原に対し、団体交渉の場所をなぜ無断で変更したかと詰問し、強く謝罪文を書くように求め、それに応じない上原に悪口、非難の言葉をあびせ、約四時間ほどにもわたって、上原に対する追及を続けた。途中で、債務者の会社管理職員らが、寺院の中に入ろうとしたが、それを阻もうとする同組合の組合員との間で悶着が起きたため、上原が、帰るように命じた場面もあった。

結局、上原は謝罪文を書かないまま、同日午後八時三〇分過ぎころ解放された。

(五)(1) 債権者菊地ら、同組合組合員は、同年一月二〇日から埼玉県大宮市所在の日産電子株式会社を訪ね、日産電子労働組合の組合員らにいわゆる共闘、支援を依頼した。同月二一日には、債権者菊地が、右労働組合の組合員全員に対し、呼びかけの演説を行ったが、その中で「こんな汚い会社はつぶしてもかまわない。組合がつぶれるか、会社がつぶれるかとことんまでやる。」との発言をした。

(2) 前記(四)の(1)のとおり、東北日産電子労働組合では、同年一月一六日、債務者に対し、翌日ストライキを行うことを通告し、同月一七日ストライキを行った。

(3) 債務者は、従業員に対する同年一月分の給料袋の中に、会社合理化のために解雇がやむを得ないことを説得する文書を同封したが、同組合では、給料袋の中には何も入れないとの約束があったとして、組合員にその回収をさせた。」との事実を一応認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

2  なお、本件の全証拠によっても、債権者安藤、同鈴木、同菊地が昭和四九年七月一二日職場離脱をしたことは認められず、証人上原哲雄の証言中、右(三)の(2)の際に債権者鈴木も東邦銀行喜多方支店に赴いたこと及び右(四)の(3)、(4)の際に債権者菊地も現場にいたことを供述する部分は、債権者鈴木一夫、同菊地信雄の各本人尋問の結果に照らせば、採用し難く、かえって、右1の(五)(1)において認定した事実と右各本人尋問の結果を総合すれば、右の各場面において、右各債権者は各現場にはいなかったことが疎明される。

3  債務者の反論第2項の(二)の事実中、債務者の就業規則の規定の定めの点については、当事者間に争いがない。

4  そこで、1において認定した債権者らの行為が、懲戒解雇事由に該当しうるか否かについて検討する。

(一)  一般に、労働組合活動は、労働協約等において特に許されている場合のほかは、原則的に就業時間外においてなされるべきであって、就業時間中に使用者の許可を受けることなく、みだりに職場を離脱することは、労働組合活動としても許されないところであり、本件全証拠によっても、債権者らの前示1の(一)の(2)から(4)まで、(8)から(10)までの職場離脱の際債務者の明示又は黙示の承諾、同意があったことは認められないから、これらは、違法であったと考えざるをえない。

しかしながら、1の(一)において認定した経緯によれば、同(2)から(4)までの債権者らの職場離脱は、同(1)において認定した労働争議の過程で、債務者が、東北日産電子労働組合との団体交渉を避け、従業員らに直接説得活動等をしようとしたことに対抗して、債権者らが団体交渉を求め、又は抗議に出たことから職場離脱に及んだものと見られ、目的においては多少の正当性を認める余地があるから、いずれもその違法性を重大視することはできない。

また、1の(一)の(8)から(10)までの職場離脱は、同(7)及び(10)冒頭に掲記の労働争議中のことであり、いずれも始業時前に債務者側の担当者と面会するうちに長びいて就業時間にくいこんだものであるが、一回あたり約三〇分間にとどまっていたこと、(8)については、債務者側が予定していた団体交渉を直前に急に変更したことから、その釈明と抗議の結果職場離脱となったこと、(9)については、当日の団体交渉について確認、要求のために行ったこと等も明らかにされており、これらの事実を総合して勘案すれば、これらの職場離脱は、その回数、態様、それに伴うけん騒等を考慮に入れても、その違法性が重大であるとは言えない。

(なお、同(11)の職場離脱については、本件全証拠によっても、日にち、態様、時間等について特定することはできず、懲戒処分の基礎とすることはできない。)

以上のほか職場離脱に対して、使用者はいわゆる賃金カットで対処しうることをも考慮に入れれば、前示1の(一)の(2)から(4)まで、(8)から(10)までの職場離脱は、違法との判断を受け、他の態様の懲戒処分を受けることの理由となりうるかは格別、これらのみの事由で懲戒解雇処分に値するとは考えられない。

(二)  次に前示1の(二)のビラ貼りの点を考えてみる。

職場内の貼付を禁じられた場所にビラを貼り付けることが職場の秩序、平穏を乱すものであることは否定できないが、ビラを貼ったり配布したりすることは、労働組合活動のごく通常の方法の一つであるから、これが職場規律違反として懲戒処分の理由となりうるか否かは、そのなされた経緯、場所、方法、回数、ビラの内容、その他を総合して、使用者が被る業務運営、施設管理上の支障の程度、労働組合側の必要性の程度を勘案して判断すべきものと解される。

本件について右の点を見ると、前示一の(二)において認定したところによれば、債務者ら同労組で貼付したビラの枚数は百枚を越える多量のもので、債務者の施設の相当広範囲にわたって貼付されたことが認められるが、同(2)に認定したような労働争議の行き詰まり状態の中で、組合員個々人の意見を債務者に伝えるとの目的で企図されたこと、貼付の仕方はワラ半紙をセロハンテープで貼りつけたにとどまり、容易にとり外しのできる状態にあったこと、債務者の側で現に容易に撤去できたことが認められ、同組合でビラを貼付するに至った経緯が前認定の通りであることからすれば、組合員らが、自己の要求や意見を会社側にビラによって訴えようとする心情も首肯できないではなく、その意味においてビラ貼付の必要性があったと考えられるのに対し、これによって債務者の施設管理にはさほど重大な影響を与えたとは考えられない。

もっとも、そのビラの一部には良識を逸した誠に不穏当な内容を含むものがあったことも認められるが、これらのうちのあるものが債権者らのうちの一部の者によって撤去されたことに照らせば、そのような不適当のものの貼付まで債権者らが意図していたとは考えられず、債務者側が債権者らに対し、いわゆる労働組合の幹部責任を問うていないことの明らかな本件においては、債権者らにその責任があると解するのは困難である。

そうすると、本件のビラ貼付は、1の(二)の(1)において認定した事実を考慮に入れても、懲戒解雇に値するような違法性があるとは断じ難い。

(三)  使用者に雇傭される従業員が、使用者の取引先に対する名誉信用を害するような行為をすることは、労働争議中の労働組合活動であっても、特別の理由がない限り、許されないことは、雇傭契約上の信義則から言って当然であると解される。

そこで、本件における前示1の(三)の債権者安藤、同菊地らの行為を検討してみると、その(2)に認定した債権者らの行為は、営業時間内の銀行へ、はち巻姿で多人数で押しかけ、責任者に面会を求めたというものであって、債務者の名誉、信用にとって無害であったとは考えられず、懲戒処分に値するものと言わなければならない。

しかし、前掲各証拠によって窺うことのできる債務者の当時の経営状態に照らせば、債権者らの同(2)の行為が同(3)の状態を招いたとは速断できないこと、債権者らが右のような行為に出るについては、同(1)に認定したようなやりとりがあったこと、特に、債務者側から、銀行でその経営状況について確認することに同意があったこと、同(2)の行為の結果、債権者らも債務者の主張を納得するに至り、同(4)のとおり妥結を見たことをも考慮すれば、右の行為の違法性が重大であるとは言い難く、これのみで懲戒解雇処分をすることはできないと考えられる。

(四)  次いで前示1の(四)について検討する。

右の(3)、(4)において認定した上原に対する債権者安藤、同鈴木らの行為は、多数の者が少数者を、自らの本拠ともいうべき場所に連行し、これを取り囲んで、長時間にわたって悪口雑言をあびせ、外部との行き来をさえぎったものと認められるから同(1)、(2)に認定した経緯や、右行為の目的の点を考慮に入れても、多衆の威力を示し強談威迫をなしたと言うほかなく、とうてい正当な労働組合活動の範囲内にあるとは考えられない。

そうすると右の債権者安藤、同鈴木の行為は、十分懲戒解雇処分に値すると考えられ、債務者の就業規則第一〇一条第八号にも該当すると判断される。

なお、前記2において認定したとおり、右の現場に債権者菊地はいなかったことが明らかになっているから、同債権者について、右の点は懲戒解雇処分の理由となりえないことは言うまでもない。

(五)  前示1の(五)において認定した債権者菊地の言動は、労働組合が他の労働組合に対して働きかけをする中でなされたものであって、債務者の企業秩序と関係をもたない労働組合固有の活動内で生じたものであるから、他に特段の事実の認められない本件においては、懲戒処分の対象となりうるものではない。

同(2)において認定した同組合のストライキについて、債務者は、違法、不当であると主張しているが、本件全証拠によっても右の点を窺わせる事実は認められない。

(なお、前掲各証拠によれば、右ストライキの際に、同組合の組合員斎藤利男が債務者の会社施設内の変電所の電源を切ったことが認められるが、一方、右行為は同組合の指令に基づくものでなく、債務者の側でも、同年一月末斎藤に対してのみ個別的に懲戒解雇処分に付することを内々に決定していたことが認められるから、この点から右ストライキの違法又は不当を認めることはできない。)

また同(3)において認定した同組合による文書の回収指示は、組合員個々人の自発的な文書提出を促すこと以上の意味を持たないうえに、対象の文書の内容は、債務者が従業員に対し、争議について説得をするものであるにとどまるから、この点をとらえて懲戒処分の理由とすることは失当である。

5  以上に検討してきたところによれば、前示1の各事実のうち、(四)において認定した債権者安藤、同鈴木に関する事由は懲戒解雇処分に値するが、(一)ないし(三)の事由は、他の懲戒処分の理由としては格別、その全部を合わせても、懲戒解雇処分の理由となりうるほど重大性があるとは言い難く、その余の事由は、懲戒処分を基礎づける理由には値しないと言うことができる。

そうすると、債権者安藤、同鈴木については懲戒解雇の事由が一応認められるが、債権者菊地については、先に認定したすべての点を合わせてもこれを認めることができず、同債権者に対する懲戒解雇処分は、他の点を検討するまでもなく、無効に帰する。

6  懲戒解雇としてなされた解雇の意思表示を普通解雇の意思表示に転換することが許されないことは、前記第三項6において検討したとおりである。

そうすると、債権者菊地に対する解雇は、普通解雇としても効力をもたないから、債務者と同債権者との間には、なお雇傭契約が存続しているものと一応認められる。

五  債権者安藤、同鈴木の申請につき、債権者らの再反論第2項、第3項に関して判断する。

1  債権者らの再反論第2項の事実中、同項中に引用されている同第1項(四)の労働協約が締結された点、同第3項の事実中、債務者の就業規則に主張どおりの規定が置かれている点については、当事者間に争いがない。

2  債務者代表者の本人尋問の結果によれば、

「(一) 債務者側では、七名の取締役から成る取締役会を就業規則に言う懲戒審査委員会に該当するとの判断のもとに、右取締役会で、債権者安藤、同鈴木らの懲戒解雇処分を決定した。

(二) 右取締役会では、右決定をするに際し、右両債権者らに何を言っても聞くはずがないとの考えにより、両債権者らに対し弁明の機会を与えることはしなかった。

(三) また、右取締役会では、前記の労働協約第二項の規定は、両債権者らに対する懲戒解雇処分をするについては適用がないと考え、前記組合に対しこれを通告、協議したことはなかった。」

との事実を一応認めることができ、右認定に反する証拠はない。

3  ところで、就業規則なるものは、使用者が一方的に制定するものではあるが、ひとたびそれが制定されれば、一個の法的規範として関係者に対し一般的妥当性を有し、企業の構成員はすべてその拘束を受けるに至り、制定者たる使用者もその例外ではなくなると考えられる。このことに鑑みれば、就業規則の定める手続に違反してされた懲戒処分は、その手続違反が軽微であって結果に影響を与えないような特別の場合を除き、無効であると解される。

また、前記の労働協約第二項に定められたようないわゆる労働協約上の人事に関する労働組合との協議条項、とりわけ解雇に関する協議条項は、解雇等が、労働者にとってその労働契約関係の消滅を招くなど最も重大な待遇の変更であることに鑑み、これを使用者の一方的な経営権の行使に委ねることなく、労働組合が使用者の意思決定に参加することによって労働者の地位の確保を計るところにその目的があり、その本質は、経営参加条項であると考えられる。そして、経営参加とは、一つの客観的制度であるから、これに利害関係を有する者は、誰であってもその存在と効果を主張できること、人事協議条項の中でも特に解雇協議条項は、労働契約関係の消滅という労働者にとっての最重要事項に関するものであることから考えれば、解雇協議条項に違反する解雇は、労働組合側が協議を拒絶するなど特段の事由のない限り、無効と解される。

4  そこで本件の場合について検討してみると、右2において認定した事実に前記第四項の2において認定した事実を総合すれば、債務者側では、債権者安藤、同鈴木らを本件の懲戒解雇処分に付するに際し、右債権者らに対し弁明の機会を与えないまま処分を決定したが、このため、懲戒処分の理由とされた前記第四項の1(三)の(2)の際には債権者鈴木が、同(四)の(3)、(4)の際には債権者菊地が各現場にいなかったのに、それぞれ、各債権者が臨場していたとの誤認のうえで処分をしたものと認められる。また、前記認定のとおり、債務者側では債権者らに何を言っても聞くはずがないと考えて弁明の機会を与えなかったものであるが、(証拠略)によれば、債権者安藤、同鈴木らに対して解雇通知のなされた日の直後である昭和五〇年七月二一日ころ、同組合で債務者に対し団体交渉を申し入れながら同月二二日ころ、債務者からこれを拒絶されるという事態があったことが、一応認められる。そうだとすれば、債権者らが弁明の機会を与えられてもこれを拒んだであろうとはいいきれず、却って、もし仮に同組合の幹部たる右両債権者らが、債務者から本件懲戒処分をする前提として弁明の機会を与えられていたならば、これを拒むことなく、あらゆる点について弁疏をしたであろうと推察される。

そうすると、両債権者について弁明の機会が与えられなかったことは、右両債権者に対する本件懲戒解雇処分の効果に影響を与えかねない重大な手続違反と言わなければならない。

また、右に認定した本件解雇通知後の同組合と債務者との間のやりとりに照らせば、本件の場合に、同組合が協議に応じないとの事態は想定できず、他に、債務者が同組合との協議をしなかったことを正当化する特段の事由のあることを窺わせる証拠はない。(なお、債務者は、本件の労働協約上の人事協議条項は、本件懲戒解雇のような個別的な懲戒処分の際には適用されない、との主張をしているが、本件労働協約の協議の対象中に「組合員の降格」が含まれているとの一事に照らしても、懲戒処分による解雇の場合を除外する趣旨とは考えられないから、右主張は理由がない。)

5  そうすると、その余の点について触れるまでもなく、右両債権者に対する本件の懲戒解雇処分は、その手続が就業規則及び労働協約に反し、無効に帰する。

また、懲戒解雇としてなされた解雇の意思表示を普通解雇の意思表示に転換することが許されないことは、前記第三項6において検討したとおりであって、右両債権者に対する解雇は普通解雇としての効力もない。

そうすると、債務者と右両債権者との間にも、なお、雇傭契約が存続しているものと一応認められる。

六  申請の理由第3項の事実中、賃金の支払方法及び債権者穴沢に関する部分については、当事者間に争いがなく、その余の部分については、債務者は明らかに争わないから、自白したものとみなすべきである。

七  (証拠略)を総合すれば、申請の理由第4項(一)、(二)の各事実を一応認めることができ、各債権者について、本件各仮処分の必要性が認められる。

八  以上によれば、本件各仮処分申請は、いずれも理由があるから、それぞれ保証を立てさせないで、これを認容し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 村上守次 裁判官 清野寛甫 裁判官 成田喜達)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例